ボストン茶会事件~独立戦争
1769年の春、現在のカリフォルニア南端サンディエゴ湾の中に一隻のフリーゲート号が入港してきた。乗船していたのは、カリフォルニアへ殖民を目指すスペインの探検家だった。16世紀にもスペイン人はカリフォルニア海岸を船で探検したが、当時中南米の殆どを占領していたスペインにしてみれば、カリフォルニアを殖民する余裕がなかったという。

200年余の年月が過ぎ、1769年の夏、サンディエゴのプレシディオ(要塞)ヒルの上に、セラ神父がカリフォルニア最初のミッション(伝道寺院)を建立した。翌1770年には北上して風光明媚なモントレーに上陸した一隊は、ここにも新しいミッションを建立した。その後、30年の間に広大なカリフォルニア海岸の南半分に渡って19ヶ所ものミッションを建立してしまった。そして、それらがインディアン達の交易所や伝道所となり、更には植民地化の拠点ともなった。



1763年に集結したヨーロッパの7年戦争の間に、植民地だったアメリカでは、イギリスとフランスが闘い、イギリスが勝ったことにより、広大なカナダの植民地を手に入れた。 しかしながらイギリスは、莫大な戦費のために国の財政が窮乏した。そこで、時の国王ジョージ3世は「植民地防衛のための費用なのだから、植民地の連中に分担させよう!」と考え、関税法を改めて税金の取りたてを強化した。印紙税法が制定されたのが1765年。

当時、イギリスの東インド会社は、植民地を含む本国との茶貿易について、とても不公平な独占権が与えられていて、他の国の東インド会社は密輸という手段で対抗していた。植民地の人々は無論反発して、イギリスからの輸入品に不買運動を行った結果、茶税だけを残して印紙税法は撤廃された。

しかし、茶は植民地の人たちの中にも既に浸透しており、密輸茶の人気は高まるばかり、イギリスの茶の売り上げは落ち込んでいった。困ったイギリス東インド会社のために、イギリスは「本国に関税を払わないで、アメリカに茶を売ってもよい」と宣言。正規輸入される茶は安くはなったが、密輸に従事していた人たちは激怒する。



1770年、ボストン虐殺事件勃発。重い税金に反対したボストン市民と英国軍が衝突。兵士が群集に向け発砲し、死者5人。ボストン茶会事件のきっかけになる。そして1773年12月16日のこと。 「積み荷の茶を塩水で混ぜ合わそう!」 とインデイアンに扮装した人々は無言で、ダートマス号、エリーナ号、ビーバー号に乗っていた茶箱342個を海に投棄してしまう。この事件の後、その近辺の海で獲れる魚は茶の味がするといわれたとか。この事件を契機として、フィラデルフィアなどでも「ティーパーティ」が開かれ、最終的には独立戦争へと発展した。

1774年、海路と並行して、陸路でメキシコ北辺からカリフォルニア中央部に到達するコースを作り上げる必要があり、英雄ファン・バウディスタ・デ・アンサにスペインから命令がくだった。

探検隊でもあったアンサは、アリゾナの南端にあるツーバック根拠地を指揮していた。アンサは命令を受けた年(1774年)に1度予備審査を行う。ツーバックから74日かけてモハベ砂漠を横切り、現在のロサンゼルスに近いサンガブリエル・ミッションに到達している。

2度目は、まず始めに同じルートを辿り、最大の目的は伝説のサンフランシスコまで一挙に足を伸ばし、そこの殖民の拠点を築く事であった。アンサがツーバックを出発したのは、1775年10月23日の事で、240人もの部下を従え、1000頭もの家畜を連れていたという。

同年4月19日早朝、大陸の反対側のボストン郊外では、豊かな森の連なるレキシントンの原野で、後にミニットマンと呼ばれるようになる植民地側の民兵達とイギリス駐屯地との間に最初の銃火が交わされ、独立への革命は熱き火蓋は切って落とされた。



一方、太平洋岸でワシントンが独立軍の指揮を取り始めていた時、他方では、太平洋岸を目指したアンサ探検隊がアリゾナの荒野の中をヒラ・バレーに沿って西へ進んだ(ここは第二次大戦の最中に日本人と日系人が強制収容された場所でもある)。

数ヶ月後、砂漠や山脈を超えて、アンサ達がなだらかな丘の上から美しいサンフランシスコ湾を見下ろしたのは、1776年3月の事で、それから4月へかけて、平和でのどかな湾の周辺を調査して、砦とミッションを建てる場所を決定した。アメリカの独立宣言書が公布される3ヶ月前の事である。

結局その年の9月には砦が、10月にはミッションが建てられ、スペイン領サンフランシスコはアメリカ独立宣言の年に誕生する事になった。

当時、このカリフォルニアから南米の南端まで領有した強大なスペインから見れば、独立したばかりのアメリカ合衆国は、物の数ではなかった。 しかし、その後スペインの新大陸における政治的野望は跡形もなく消え、アンサの功績も忘れ去られようとしている。

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